①赤外線の種類
ISO 20473 による区分
区分 | 略称 | 帯域 |
---|---|---|
近赤外線 | NIR | 0.78–3 µm |
中赤外線 | MIR | 3–50 µm |
遠赤外線 | FIR | 50–1000 µm |
②周波数の差=加熱能力の差
「ウイーンの変位則」でも明らかなように、ヒーターが高温になるほど近赤外線にシフトします。
高温加熱用途では、近赤外線が適しています。
③周波数の差=固有振動周波数との共鳴
電磁波の周波数が、ある物質の分子の振動(格子振動)と一致すると電磁波の放射のエネルギーが吸収(共鳴吸収)され、分子の振動を増加させて温度が上がります。
分子の振動・回転の励起に必要なエネルギーは、分子の化学構造によって異なります。
この、吸収強度・吸収エネルギー周波数のことを「吸収バンド」といいます。
従って、吸収バンドが近赤外帯域にあるものは近赤外線加熱に適しています。
同様に、吸収バンドが遠赤外帯域にあるものは遠赤外線加熱に適しています。
④透過力 = 人体
近赤外線は、皮膚表面から数ミリメートルの深さまで浸透します。
この特徴を使い、指や手のひら内部の静脈模様を近赤外線で調べることで個人を認証する方法が、最近、銀行などで導入されています。
遠赤外線の持つエネルギーは、皮膚表面から約0.2mmの表面で、ほとんど吸収されてしまいます。
寺田信生「赤外領域で人間の皮膚の浸透特性」
N.Terada et al,”Spectral radiative proper of a living human body”, International Journal of Thermophys., vol.7, pp.1101-1113, 1986.⑤透過力 = 大気
大気には赤外線を吸収しやすい帯域があります。
4.3ミクロン帯は二酸化炭素の吸収バンドです。
6.5ミクロン帯は水蒸気の吸収バンドです。
赤外線の透過率の良い帯域を「大気の窓」と呼んで、人工衛星による気象観測で利用されています。
⑥色による差
物体の色は、物体がどの波長の光を吸収してどの波長の光を反射するかで決まります。
肉眼で見える光(可視光)の波長は約0.4~0.7μmの範囲です。
白い物は可視光をあまり吸収せず反射し、黒い物は可視光をほとんど吸収して反射しない物です。
可視光の範囲だけ見ると白い物より黒い物はよりエネルギーを吸収して温度が上がります。
近赤外線は波長が0.7~3μmで可視光に隣接しています。
色と赤外線の吸収しやすさは直接関係がありません。
しかし、可視光と近赤外線の波長は隣接しているため、白い物は近赤外線も反射する性質を持っている可能性が高く、逆に黒い物は近赤外線を吸収する性質を持っている可能性が高いと思われます。
隣接帯域の近似性は波長が遠のくほど薄れますので、近赤外線>中赤外線>遠赤外線の順に近似性が薄くなります。
印刷物を乾燥する場合、白紙に黒インキで印刷し黒インキだけを乾燥させるなら、黒インキにエネルギーが集中する近赤外線が適しています。
逆に、カラー印刷では、色による吸収率の差の少ない遠赤外線が適しています。
尚、塗料メーカーやフィルムメーカーの技術革新により、白色で赤外線吸収率の高い製品や、黒色で赤外線反射率の高い製品が多数開発されています。