樹脂加熱の基礎知識-3 樹脂の種類-4 エンジニアリングプラスチック

樹脂加熱の基礎知識-3 樹脂の種類-4 エンジニアリングプラスチック

エンジニア・プラスチックの名は、1959年に米国デュポン社がポリアセタール樹脂の製品名「デルリン」のPRで初めて使用しました。
この樹脂が歯車などの機構部品に使えることから、「エンジニア・プラスチック」=工業用プラスチックという呼称を与えられました。

汎用樹脂とエンジニアプラスチックとスーパーエンジニアリングプラスチックは、耐熱性を示す尺度としての荷重たわみ温度(DTUL)で区別されています。
DTULが100℃以上がエンジニアプラスチック、150℃以上がスーパーエンジニアリングプラスチックと看做されています。
一般的な性質は、DTULは100℃以上で、強度500kgf/cm2未満・曲げ弾性率24000kg/cm2未満です。

荷重たわみ温度(DTUL)

荷重たわみ温度は、合成樹脂の耐熱性を評価する試験法の1つで熱変形温度とも呼ばれています。
試験法規格に決められた荷重を与えた状態で、試料の温度を上げていき、たわみの大きさが一定の値になる温度です。
試験法は ASTM D648、JIS 7191 で定められています。
試験片に定荷重を加えて、温度を2℃/分の速度で上昇させたとき、変位が一定値になる温度を求めます。
曲げ弾性率が 2,514 kgf/cm2 =0.25 GPa または 10,000 kgf/cm2=1GPaになる温度です。
樹脂の弾性率の温度変化の特性から、ガラス転移点を越えると急激に弾性率が低下するので、荷重たわみ温度はガラス転移点に近い温度値になる場合があります。

エンジニアリング・プラスチックは、結晶構造の有無により、非晶性樹脂と結晶性樹脂に分けられます。
多くの特性は強化繊維やその他の充填剤を配合することにより改善されるため、実際には各種樹脂におけるグレードごとに特徴に差があります。
実際に使用するには、各メーカーのカタログで確認が必要です。

非晶性樹脂

透明、耐溶剤性劣る、調色容易、流れ悪い、摩耗比較的大きい、摺動性やや劣る、柔軟・強靭、割れにくい、そり少ない、収縮率小さい

1. ポリカーボネート(PC)

透明性樹脂。低成形収縮率、吸水率が小さく寸法安定性良好。耐衝撃性、耐クリープ性、電気特性も非常に優れている。耐薬品性に劣り、ストレスクラックに注意が必要。分子中にエステル結合を持つため、成形前に予備乾燥しないと加水分解を起こし物性が低下する。最近、ダイオキシン発生の懸念から有機ハロゲン系難燃剤を使用すると、ドイツのエコラベル等で認可が受けられなくなった。このため、ノンハロゲン系難燃処方が検討されており、すでにリン系難燃グレードやシリコン系難燃グレードが開発されている。また、ABSのノンハロゲン系による難燃化が困難なことから、PC/ABSやPC/HIPS等の難燃アロイグレードによるABSの代替が始まっている。

2. 変性ポリフェニレンエーテル(mPPE)

剛性、耐衝撃性、耐疲労性が広い温度範囲で安定している。低成形収縮率、寸法安定性に優れている。低比重、低吸水率、耐熱水性に優れる。耐薬品性は酸、アルカリに侵されないが、芳香族炭化水素、ハロゲン化炭化水素には侵される。難燃グレードの成形時にでるジュースが課題であったが、最近は高分子量難燃剤により改善されてきている。元来耐候性に劣る(黄変)が、最近ABSに近い耐光性の難燃グレードが開発されている。一般にリン系難燃剤を使用しており難燃規格ULHBからV-0まで可能なため、ダイオキシン発生等の問題は懸念されない。

結晶性樹脂

不透明、耐熱性高い、耐溶剤性に優れる、流れ良好、薄肉成形に適する、耐摩擦摩耗性・摺動性良好、高剛性、高硬度、もろい、割れやすい、そりやすい、収縮率大きい

1. ポリアミド(PA)

ナイロンともいう。化学構造の違いにより各種ある。耐衝撃性に特に優れている。耐摩擦・摩耗性、耐薬品性(強酸、フェノールを除く)、耐油性、ガスバリヤ性に優れる。化学構造上、吸水性が高いため、剛性低下、寸法変化に注意が必要。ただし、最近ではPPEとのアロイによる改良や、充填材による低吸水化(芳香族ナイロン)などの開発動向がある。

2. ポリアセタール(POM)

耐疲労性に極めて優れている。耐摩擦・摩耗性、低騒音性、耐薬品性、耐クリープ性、寸法安定性に優れるとてもバランスのよい樹脂。吸水性は少ない。ただし、小型成形品ではあまり問題とならないが、肉厚成形品ではひけが目立ちやすく、大型成形品では変形が発生しやすい。分子中に酸素を多く含むため、難燃性付与は難しい。元来、耐候性に劣るが、最近は紫外線安定剤や顔料の選定による耐候性の向上されたグレードが開発されている。

3. ポリブチレンテレフタレート(PBT)

強靭、高剛性、耐熱性、耐熱老化性、電気特性、耐候性、耐薬品性、寸法安定性、成形性に優れる。分子中にエステル結合を持つため、成形前に予備乾燥しないと加水分解を起こし物性が低下する。難燃化は容易だが、現状、臭素系難燃剤が用いられる場合が多く、環境への負荷低減の検討が期待される。最近は、金属インサート成形品の耐ヒートサイクル性を高めたり、低そり化、難燃PBTの低ガス化を改良したグレード等が開発されている。

4. ポリエチレンテレフタレート(PET)

耐熱性、耐薬品性、電気特性、耐候性に優れる。分子中にエステル結合を持つため、成形前に予備乾燥しないと加水分解を起こし物性が低下する。金型温度の低温化、溶融熱安定性に優れたものが期待されている。

エンジニアリング・プラスチックの熱的性質(代表値)

非晶性樹脂名 記号 密度
[g/cm3]
比熱
[J/g ℃]
熱伝導率
[W/m K]
DTUL
GF強化
DTUL
Tg
Tm
成型
温度
金型
温度
ポリカーボネート PC 1.2 1.26 0.19 135 146 145-150 250 250-320 70-120
変性ポリフェニレンエーテル mPPE 1.06 1.95 0.15 107-149 142 211 300 230-350 70-120
結晶性樹脂名 記号 密度
[g/cm3]
比熱
[J/g ℃]
熱伝導率
[W/m K]
DTUL
GF強化
DTUL
Tg
Tm
成型
温度
金型
温度
ポリアミド (ナイロン6) PA6 1.14 1.59 0.25 63 190 48-50 225 230-290 60-100
ポリアミド (ナイロン66) PA66 1.14 1.42 0.24 70 240 50 265 250-300 60-100
ポリアセタール
「デルリン」「ジュラコン」
POM 1.41 1.47 0.23 110-130 163 -56 167-178 175-210 60-100
ポリブチレンテレフタレート PBT 1.52-1.67 1.67-1.76 0.22 60 217 22 224 230-270 70-120
ポリエチレンテレフタレート PET 1.47-1.67 1.26 0.31 240 235 69 260 265-280 80-120

Tg:ガラス転移点
Tm:融点