液晶とは
液晶とは液体と固体(結晶)の中間の状態、またはそのような状態となる物質のことです。
現状では、液晶構造を発現するものは樹脂以外に発見されていません。
液晶の分野は発展段階にあり、新規の発見や発明が続いています。
固体と液体の中間状態は液晶と柔軟性結晶があります。
液晶は、3次元的な位置に規則性が無いものの、粒子の配向に規則性が有る状態とされます。
柔粘性結晶は、3次元的な位置に規則性が有るものの、粒子の配向に規則性が無い状態とされます。
柔粘性結晶の代表的な化合物として、四塩化炭素やシクロヘキサン、フラーレンが有ります。
規則性 | 固体 | 液晶 | 柔軟性結晶 | 液体 |
---|---|---|---|---|
3次元的な位置に規則性 | ○ | × | ○ | × |
粒子の配向に規則性 | ○ | ○ | × | × |
液晶高分子
液晶構造を発現する樹脂のことを液晶ポリマー又は液晶高分子(Liquid Crystal PolymerまたはLiquid Crystal Plastic,LCP)、といいます。
液晶はその発現形式に基づいて温度転移型(サーモトロピック)液晶(Thermotropic Liquid Crystal)と濃度転移型(リオトロピック)液晶(Lyotropic Liquid Crystal)に分類されます。
温度転移型(サーモトロピック)液晶
サーモトロピック液晶は、融点と透明点の間で「液晶」に変わります。
溶融状態で分子の直鎖が規則正しく並んだ液晶様性質を示し、熱可塑性樹脂と定義されます。
現在工業的に使用されている液晶樹脂はほとんどこの型です。
濃度転移型(リオトロピック)液晶
リオトロピック液晶は、何かの液に溶かすと完全な溶液になる手前の、特定の濃度範囲で「液晶」に変わります。
溶解という刺激で液晶になり、ある種の界面活性剤を高濃度で水に溶かした時に見られます。
親水性部分と疎水性部分がそれぞれ集まることで、溶液全体にわたる大規模な構造ができます。
液晶には4つの系の基に多くの相が有ります。
(1). 0次元重心秩序系
ネマチック相
キラルネマチック相
ディスコティックネマチック相
コレステリック相
(2). 1次周期構造系
スメクチック相(略称Sm相)
SmA・SmB・SmCと多数あり、更に新しい発見が続いています。
バナナ型スメクチック相(略称B相)
B1・B2・B3と多数あり、更に新しい発見が続いています。
(3). 2次元周期構造系
ディスコティックカラムナー相
(4). 3次元周期構造系
キュービック相
ブルー相
※液晶には多様な状態が存在して、新しい発見が続いています。
液晶の歴史
リオトロピック液晶の発見
ルードルフ・ルートヴィヒ・カール・フィルヒョウ(Rudolf Ludwig Karl Virchow、1821年10月13日 – 1902年9月5日)はドイツ人の病理学者、白血病の発見者
1854年, R.フィルヒョーが生体の神経組織であるミエリンと水を接触させて、リオトロピック液晶を発見しました。
サーモトロピック液晶の発見
フリードリッヒ リヒャルト ライニッツァー(Friedrich Richard Reinitzer 1857年2月25日- 1927年2月16日)オーストリアの植物学者・化学者
1888年, F・ライニッツァーは、プラハの植物生理研究所での研究中に偶然、コレステロールと安息香酸のエステル化合物コレステリルベンゾエートが2度融解することに気づきました。
普通の固体は結晶を加熱すると、ある温度(融点)で液体となります。
ところが、コレステリルベンゾエートの結晶を加熱すると145.5℃で白濁した液体となり、さらに加熱すると178.5℃で透明な液体となったのです。
つまり、彼はコレステリルベンゾエートに2つの融点があることを発見しました。
これを不思議に思ったF・ライニッツァーはO・レーマンに詳しい調査を依頼しました。
オットー・レーマン(Otto Lehmann 1855年1月13日 – 1922年6月17日)ドイツの物理学者
レーマンは当時の最先端の機器である加熱式偏光顕微鏡を開発しました。
レーマンはこの不思議な液体コレステリルベンゾエートを加熱式偏光顕微鏡で観察し、ある現象を確認しました。
液体の状態のコレステリルベンゾエートに本来は固体の結晶がもつ光を2つの方向に屈折させる複屈折の性質があることを発見しました。
複屈折は異方性を持つもの、つまり結晶でしか起こらない現象というのは当時から知られていました。
液体の状態なのに結晶のような性質をもつと考え、「流れる結晶について」という論文を書いています。
これをきっかけに、色々な材料が分析されました。
1911年フランスのシャルル・ビクトール・モーガンがラビングによる液晶配向を発見しました。
1922年フランスのジョルジュ・フリーデルが「スメクティック・ネマティック・コレステリック」という液晶の3分類を確立、液体と結晶の中間=液体結晶ということで、「液晶」と名づけられました。
1963年米国のRCA社のR・ウィリアムズが液晶に電圧をかけると透明な液晶が不透明に変わることを発見しました。
1968年米国のRCA社がネマティック液晶(糸状模様の液晶)に直流や低周波の電圧をかけると透明であった液晶が乳白色に変わる現象を見い出し、「動的散乱効果」と名付けて液晶の応用への道を切り開きました。
1973年日本のSHARPが表示体として動的散乱型液晶(DSM)を実用化し、世界初の液晶表示装置をもつ電卓が開発され、液晶ディスプレイ(LCD、Liquid Crystal Display)はいろいろな機器に利用されるようになりました。
1974年米国のイーストマン・コダックが「ザイダー」を開発・上市、ポリエチレンテレフタレートの耐熱性向上を狙いました。
1979年日本の住友化学工業(現:住友化学)が「エコノール(現スミカスーパー)」を開発、表面実装技術(SMT)に対応して耐熱性を向上しました。
1984年米国のセラニーズが「ベクトラ」を開発し、機構部品への対応範囲を拡げました。
液晶ディスプレイ(Liquid crystal display、LCD)用液晶素材
液晶による光シャッター
液晶は、電圧や磁力などによって簡単に分子が動き、光の通し方が変わります。
この性質を利用すると、電気的にコントロール可能な光のシャッターをつくることができます。
それが、ねじれネマチック液晶(Twisted Nematic Liquid Crystal)です。
ねじれる性質を備えた液晶と偏光フィルターを組み合わせ、通常は光を通すけれど、電圧を加えるとねじれがなくなって光を通さなくなり、光シャッターの働きをするものです。
この方式で開発されたディスプレイをTN方式と言い、その改良型のSTN液晶が一時期のノートパソコンに多く用いられました。
電場に応答する液晶
ネマティック(nematic)という言葉は「糸状の」・「線虫の」を意味する「nemato-」から来ています。
糸状の液晶分子に多く見られる亀の甲が連なった骨格は、そこに含まれる電子が比較的自由に動けるという性質を持っていて、特に分子の長さ方向にはより動きやすいくなっています。
そのため外から電場を加えると、この電子がプラス極に近い側に偏り、分子の長さ方向にプラス、マイナスの分極が生じます。
次に、分子のプラス側が電場のマイナスに、分子のマイナス側が電場のプラスに引き付けられて、分子が回転し電場に向きます。
これが液晶の電場による配向です。
液晶は液体の流動性と固体の結晶性を兼ね備えています。
液晶の分子は液体の分子のように自由に動くことができますが、ある方向については固体の結晶の原子のように規則的に配列する性質があります。
LCDに使われている液晶は細長い形をしています。例えば、5CB と呼ばれているネマティック液晶の分子は、次の図のようにベンゼン環がつながった硬い部分と炭素が直鎖状につながった柔らかい部分からなる構造をしています。
ポジ型液晶
誘電率:長軸方向に大きく長軸に垂直な方向に小さい
ポジ型液晶は、TN型やIPS型に用いられます。
液晶分子はこの柔らかい部分があるため液体のような流動性をもち、硬い部分があるため規則正しく配列することができます。
液晶に電圧をかけると、シアノ基(-CN)によって、液晶分子中に正電荷に偏った部分と負電荷に偏った部分ができて分極します。
そのため、液晶分子は電界の方向に規則正しく配列します。電圧をかけていないときは規則的に配列しません。
ネガ型液晶分子
誘電率:長軸方向に小さく、長軸に垂直な方向に大きい
ネガ型液晶はVA型に用いられます。
4メトキシ・ベンジリデン・4ブチルアニリンN-(4-Methoxybenzylidene)-(4-Butylaniline)(MBBA)
材料名 | 融点(℃) | 透明点(℃) |
---|---|---|
MBBA | 22 | 47 |
5CB | 23 | 35 |
8CB | 22 | 34 |
構造上の性質
ネマティック液晶では分子の位置に制限がなく自由に動けますから、外からの力に対して分子が移動して簡単に変形しますし、一度変形すると自力では元に戻りません。
普通の液体と同じように流れるわけで、わずかに粘性でもって変形に逆らう程度です。
分子の向きを部分的に変えようとすると、元に戻ろうとする力がはたらいて抵抗します。
これは普通の液体では見られない現象で、しかもその抵抗力は、縦曲げ、横曲げ、捻りなど、変形の方向によって違っています。
このような特性を射出成型品に利用すると、強靭なスーパーエンジニアプラスチックを作ることが出来ます。
成型後に生じる緻密な結晶構造により、非強化状態でもフィラー強化されたエンジニアリングプラスチックを上回る剛性が有ります。
溶融時に示す液晶的性質から高分子相互の絡み合いが無いため粘度が低く、成型時の流動性に優れます。
また成型収縮率や線膨張係数が低いため、薄肉構造や微細な成型に対応できます。
この様な液晶を液晶ポリマー(Liquid Crystal PolymerまたはLiquid Crystal Plastic,LCP)といいます。
厳密には、パラヒドロキシ安息香酸を基本構造とし、ホモポリマーでは融点が600℃と熱分解温度を上回ってしまうため、各種の成分と直鎖状にエステル結合させた芳香族ポリエステル系樹脂、液晶ポリエステルともいわれています。
一般に、溶融重合法により製造される。
芳香族ヒドロキシ酸のヒドロキシ基を無水酢酸等によってアセチル化し、加熱して脱酢酸重縮合反応を起こして直鎖構造を作ります。
溶融重合法で比較的分子量の低いポリマーを製造し、これを固相重合法で更に重合させる手法もあります。
耐熱性と流動性の両立を模索してLCPは構成分子の改良検討が進み、既に20種類以上のLCPがあり、更に発展しています。
「タイプⅠ」4,4-ジヒドロキシビフェノールおよびテレフタル酸とパラヒドロキシ安息香酸との重縮合体
エコノール・住友化学
ザイダー・アモコ
「タイプⅡ」2,6-ヒドロキシナフトエ酸とパラヒドロキシ安息香酸との重縮合体
ベクトラ・セラニーズ
「タイプⅢ」エチレンテレフタレートとパラヒドロキシ安息香酸との重縮合体
ロッドラン・ユニチカ
ノバキュレート・三菱化成
LCPの物性(代表値)
単位 | タイプⅠ | タイプⅡ | タイプⅢ | |
---|---|---|---|---|
比重 | - | 1.60-1.70 | 1.62 | 1.62 |
引張強さ | MPa | 108 | 206 | 118 |
破断時伸び率 | % | 1.3 | 3 | 5 |
引張弾性率 | MPa | 14014 | 9806 | - |
曲げ強さ(23℃) | MPa | 137 | 152 | 137 |
曲げ弾性率(23℃) | MPa | 12152 | 8820 | 9310 |
衝撃強さ(Izod/6.4tノッチ) | J/m | 163 | 431 | 392 |
硬度(ロックウェル) | - | - | R66 | R70 |
荷重たわみ温度(1.81MPa) | ℃ | 266-320 | 230-240 | 180-210 |
線膨張係数(MD方向) | x10-5/℃ | 0.0093 | - | 0.1 |
誘電率 | 103/106Hz | 3.56/3.10 | 3.6/3.4 | - |
誘電正接 | 103/106Hz | 0.0068/0.041 | 0.024/0.018 | - |
体積固有抵抗 | Ω・cm | - | 6×1016 | - |
耐アーク性 | sec | 186 | 137 | - |
燃焼性 | mm | V-0, 1.6 | V-0, 0.8 | - |
酸素指数 | % | 42 | 35 | - |
成型温度 | ℃ | 350-400 | 300-330 | 275-290 |