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1-10.フィルター・ストレーナー

フィルター(filter)とは、流体中に混ざり込んだ固形物や異物を取り除く装置や機器です。
日本語では濾過(ろか)器といいます。

空気圧制御回路では、圧縮空気中の油分・水分やゴミが侵入するのを防ぐため、入口部にエアフィルターを設置します。
具体的には、濾過(filtration)とは気体に液体または固体として混ざっている混合物を、細かい穴がたくさんあいた多孔質(濾材)に通して、穴よりも大きな固体の粒子を液体または気体から分離する操作です。
SMC社AF40-04の説明図

濾過は科学実験や化学工業などで用いられる操作ですが、家庭でペーパーフィルターを用いてコーヒーを入れたり、真空掃除機で吸った空気からゴミを分離するのも濾過の一種です。

液体混合物を通すための多孔質として、古典的には紙でできた濾過紙を使います。セルロースは最も一般的な濾過紙の素材ですが、用途に合わせて種々の濾過紙が開発・実用化されてきました。
濾過で使われる多孔質はより一般的に濾材と呼ばれます。
一般に、濾過をした後に濾過紙上に残る固体を残渣(ざんさ、residue)、もしくは濾物(ろぶつ)、濾過紙を通過した液体を濾液(ろえき、filtrate)と呼びます。

1-10-1 濾過方法

濾過速度をもっとも大きく左右するパラメータのひとつは濾過紙の上下面にかかる圧力差です。これにより濾過は以下の4つに分類できます。

1-10-1-1 自然濾過

濾過に関わる力は濾過紙上と漏斗内にある液体にかかる重力のみで濾過速度は遅いのですが、特別な装置を必要としないため、最も広く用いられるています。比較的粘度が低く、固体の量が少ないものが対象になります。円形の濾過紙を用い、これを4つ折り(分析折りとも呼ぶ)にして漏斗に密着させ、これに濾過したいものを注ぎます。また、濾過紙に山折と谷折を交互に繰り返してひだ状にしたひだ折り濾過紙を用いる方法もあります。前者は濾過紙の物理的強度に優れますが、有効面積の約半分しか使用できないため濾過速度は遅く、後者は繰り返し折るため強度は弱くなりますが、濾過面積を有効に使えるため、濾過速度に優れます。一般には残渣の回収率を重視する場合は前者が用いられ、濾液のみを必要とする際などは後者を用います。

1-10-1-2 減圧濾過

減圧濾過とは、濾過速度を向上させるために、濾過紙の下面を減圧して大気圧をかけて濾過する濾過方法を指します。これにより、自然濾過では不可能であった高粘度物質の濾過や大量の沈殿の濾過が可能であす。減圧濾過の最も簡単な方法は、濾過瓶と呼ばれる減圧可能なガラス瓶を濾液受けとして使用し、圧力が一箇所に集中することを防ぐために、濾過紙を平面の目皿に置くブフナーロートを用いるものであす。濾過紙を折らないため、残渣の回収率もきわめて高い。減圧濾過では濾過紙が濾液に濡れたときの物理的強度を特に吟味する必要があります。吸引濾過ともいいます。

1-10-1-3 加圧濾過

加圧濾過とは、減圧濾過でも濾過しきれない物質に対する濾過法です。耐圧の容器(加圧濾過器などと呼ぶ)に、濾過紙と濾過したいものを充填し、濾過液面上部を圧縮空気もしくは窒素などの不活性ガスで加圧します。理論的には濾材もしくは容器が耐えうる圧力まで加圧することができるので、大気圧分までしか差圧が得られない減圧濾過に比べて効率よく濾過を行うことができます。また、通常の濾過紙ではこの圧力に耐えることができないため、専用に設計された濾過板を用いることがあります。

1-10-1-4 遠心濾過

遠心濾過とは、遠心力を用いて差圧を得て濾過する方法です。実験室的にはカートリッジになった濾過チップに濾過したいものを入れ、遠心分離機で濾過します。減圧濾過、加圧濾過ほど一般的ではありませんが、より差圧が必要な限外濾過などに用いられます。

1-10-1-5 熱時濾過

再結晶をする際などでは、濾過したい溶液の温度が室温よりも高いことが多く、これをそのまま室温で濾過すると、ろうと上で溶液が急冷され、結晶が析出してしまい、収率の低下を招きます。そのため、このような場合では、漏斗と濾過紙をハロゲンヒーターで加熱して使用します。このような方法を熱時濾過といいます。

1-10-1-6 限外濾過

フィルターの孔径を分子サイズに近づけた濾過は限外濾過と呼ばれ、巨大分子を除去することができます。限外濾過の例としては中空糸膜を使った家庭用浄水器等が挙げられます。また生物の腎臓では糸球体において血液が限外濾過され尿(原尿)が生成されており、人工透析では失われた糸球体機能の代わりを人工透析装置の中空糸膜が補っています。

1-10-2 濾材

1-10-2-1 セルロース

高純度のセルロースを基材とした濾過紙。

1-10-2-2 ガラス繊維フィルター

基材としてガラス繊維(グラスファイバー)を使用しています。機械的強度に優れ、同じ孔径の濾過紙に比べて濾過速度は数倍から数十倍と速く、特に高粘度物質の減圧濾過や、気体中の浮遊粒子状物質の捕集に用いられます。

1-10-2-3 メンブレンフィルター

メンブレンフィルター (membrane filter) ともいいます。フッ素樹脂やセルロースアセテートで作られた孔径の揃った多孔性の膜です。様々な孔径のものが市販されており、また高強度です。メンブランフィルターはその表面のみで残渣を保持するため、他の濾材に比べて単位表面積あたりの許容残渣量が極めて少く、多量の残渣が存在する場合は前処理で除く必要があります。あらかじめプラスチックの間にはさまれた形状のもの(シリンジフィルター)と、専用のガラス器具にはさんで使用するタイプのものがありす。主に各種溶媒の精製や、分析前処理など、精密な濾過に用いられるほか、微生物分析にも用いられます。0.22μm程度の孔径を有するものが完全除菌の目的のために多く使われています。

1-10-2-4 濾過板

セルロース、グラスファイバーなどを圧縮成型して強度を高めた板状の濾材です。主に工業用ですが、実験室で加圧濾過を行う際にはもっとも良く用いられています。製造メーカーによって組成は違いますが、多くは多層構造となっており、多量の沈殿にも目詰まりすることなく濾過速度を維持できるように工夫されています。

1-10-2-5 綿栓濾過

濾過紙を使用しない濾過として、綿を用いた綿栓濾過があります。漏斗やピペット等に少量の綿やグラスウールをつめこみ、濾過したいものを注ぎます。綿の量によって、濾過の速度や精度が変化します。簡易的な濾過としてしばしば用いられます。

1-10-2-6 セライト濾過

分液操作において不溶物が皮膜化するとエマルジョンを解消することが困難になります。その場合、分液操作の前処理としてセライト(celite, 陶土)あるいはケイソウ土を濾過補助剤として濾過紙の上に敷き詰め、減圧濾過を施し、不溶物を除去することで、エマルジョンを解消しやすくする方法があります。また、不要な大量の残渣をろ去する際、濾過紙が目詰まりするのを防ぐにも有用です。この手法をセライト濾過と呼びます。

 上記以外にもフェーズセパレーター濾過紙と呼ばれる、紙製濾過紙をシリコン加工により發水性を持たせ、水相を残渣、有機相をろ液として分別できる濾過紙や、さまざまなろ材を重層構造にしたカートリッジ状のフィルター等、用途によりその種類は多岐にわたります。

1-10-3 各種エアフィルター

1-10-3-1 粗塵用フィルタ (rough filter )

主に50μm以上の粒子をターゲットとしたフィルター。一般空調用ではプレフィルタ-としてよく用いられます。効率表示は重量法(JIS参照)で表現されます。

1-10-3-2 中性能/MEPA(Medium Efficiency Particulate Airfilter)フィルター

25μm以上の粒子をターゲットとしたフィルターです。効率表示は比色法試験(JIS B 9908)で95%から65%の補修効率をもっています。

主に空調系の外気処理に使用されるもので、メインフィルタとして使用するだけでなく、ULPAフィルタやHEPAフィルタの保護として使用する場合もあります。

1-10-3-3 HEPAフィルタ

HEPAフィルタ (High Efficiency Particulate Air Filter)は、対象粒子径は0.3μm以上をターゲットとしており、99.99%、99.97%、95%の凡そ3種類があります。

効率表示は計数法でJIS Z 8122 によって、「定格風量で粒径が0.3μmの粒子に対して99.97%以上の粒子捕集率をもち、かつ初期圧力損失が245Pa以下の性能を持つエアフィルタ」と規定されています。

HEPAフィルタの濾紙は主に直径1~10μm以下のガラス繊維でできています。繊維の充填率は10%程度であり、空隙は数10μmの大きさをもちます。

粒子の捕集機構は、以下の原理からなる。
粒子の捕集機構は、 フィルタを構成する繊維が粒子流線をさえぎり粒子が慣性によって流線からはずれ、粒子がブラウン運動して、繊維に接触して粒子が静電気力を受けて繊維に引かれるます。
この内さえぎり、慣性、重力効果は粒子が大きいほど強く、ブラウン運動、静電気効果は小さいほど強くなります。
したがってこれらの総和であるフィルターの粒子捕集効率は粒径によって異なり、ある粒径で最小値をとります。
HEPAフィルターの場合この最小値は約0.3μmでとると言われています。

クリーンルームやクリーンブース用の精密空調機器、製造装置の組込み用にHEPAフィルタを採用したファンユニットが使われます。クリーン度クラス100~10,000までに対応し、高いクリーン度を要求されるような半導体や液晶、医薬品や食品などに適しています。
現在の主流となっているファン式空気清浄機のハイエンド機種にはHEPAフィルタを使ったものが多くなっています。
家庭用掃除機の中でもハイエンド機種にはHEPAフィルタを使ったものが増えています。
原子力施設では、換気後の空気は気体廃棄物として排気設備から排出する際に、排気中の放射性微粒子を除去するためにHEPAフィルタが使用されています。

1-10-3-4 ULPAフィルタ

Ultra Low Penetoration Air Filter の略で、主にクラス1~100レベルのクリーンルームで使用します。

主にインダストリークリーンルームへ供給されるファイナルフィルタとして用いられています。現在はSMIF方式のクリーンルームが一般的である為、半導体の生産装置に附属されます。
効率表示は凡そ計数法 JIS Z 8122 によって、「定格風量で粒径が0.15μmの粒子に対して99.9995%以上の粒子捕集率をもち、かつ初期圧力損失が245Pa以下の性能を持つエアフィルタ」と規定されています。
ULPAフィルタはHEPAフィルタの粒子捕集効率を上げるために濾材密度を高め、空気抵抗を減らすために薄くしたので、強度が弱いという欠点があります。

1-10-3-5 超ULPAフィルター

0.1μmの対象粒子を捕集効率99.9999%(6N)以上捕集します。

超ULPAを超える捕集効率を持つ、0.1μm粒子において捕集効率99.99999%(7N)以上というフィルターも存在します。

1-10-3-6 ガス除去フィルタ(化学吸着フィルタ)

美術館や博物館のコロージョンコントロール(美術品等の腐食制御)やインダストリークリーンルームにおいてはシリコンウェハーや液晶フィルムに対しての汚染制御に用いられます。

活性アルミナにガス除去成分を溶着した物が一般的です。

1-10-4 ストレーナー strainer

ストレーナーとは液体と固体の混合物を分離するために用いる濾過装置、ザルのことで、主に液体や蒸気配管に設置されます。

各種配管ラインを流れる水・油・ガス・空気・蒸気など各種流体のなかには、流体中の異物、配管内腐食・ガスケットなどのハク離によるゴミが混入し、そのまま放置しますと、配管ラインに設置される各種バルブの弁座を損傷して寿命を縮めるとともに、各種機器が正常に運転されなかったり、機器を破損してしまう恐れがあります。これらトラブルを未然に防止するために、流体中の異物やゴミを分離・排除するストレーナが配管ラインで重要な役割を果しています。このストレーナは、流体中の異物やゴミを濾過するスクリーンを内蔵し、そのスクリーン内に溜まった異物やゴミを、ストレーナ本体が配管に接続されたままの状態で、排除・清掃できる構造となっています。
ストレーナーは形状から、比較的流体抵抗が少なく、取付けスペースもコンパクトなY形ストレーナーと、装置機器に直接配管できるU形ストレーナーがあります。

Y型ストレーナー

Y型ストレーナー

1-10-5 フィルターとストレーナー の違い

1-10-5-1 フィルターの由来

フィルターfilterとは、ストレーナーでは濾せない小さなものを分離除去するためのものです。

フェルトFeltから発生した言葉で、濾過材にフェルトを使用したからです。

日本では馴染みの無いフェルトの代わりに古代から身近な「和紙」が使用されていて、「濾紙」という言葉があります。

【羊とフェルト】

【羊とフェルト】

 

フェルトは簡単に作ることが出来るので、古代遺跡からも発掘されています。

哺乳類の体毛の表面は、ウロコ状のキューティクルで覆われています。

そのため、熱や圧力、振動を加えることでキューティクルが互いに噛み合い、絡み合って離れなくなる性質があります。

この現象を縮絨(しゅくじゅう)あるいはフェルト化と呼び、水やアルカリ性の水溶液を獣毛に含ませるとキューティクルが開いて互いに噛み合いやすくなり、縮絨はより促進されます。

この性質を利用して刈りたての獣毛を広げて石鹸水などを含ませて圧力をかけ、揉んだり巻いて転がしたりすることでフェルトが作られます。

【古代ローマの水道橋】

【古代ローマの水道橋】

 

1-10-5-2 ストレーナーの由来

ストレーナーとは、本来日本語で「笊(ざる)・篩(ふるい)」に相当する言葉で、古代ローマの水道設備に設置されました。

日常目にする「茶漉し」のイメージです。

【茶漉しとティーストレーナー】

【茶漉しとティーストレーナー】

 

英語でStrainerと書きますが、語源は印欧祖語( Proto-Indo-European)のstrenk-.:固まる・凝結です。

英語の辞書では「小さな断片と液体が通り抜ける間、大きな断片を保持するもの」と説明されています。

主目的は、配管を詰まらす可能性のある岩や石を分離して、配管を詰まらせない水と砂は通すのです。

井戸や噴水なら、汲み上げた水に少しの砂が混入しても実用上問題の無いことが多いと思われます。

砂まで除去していると、目詰まりで機能不全を起こしたり、掃除する工数が増えて維持管理する予算が膨大になります。

設備の運用に長けていた古代ローマ人らしい実用的な英知だと思います。

1-10-5-3 ストレーナーとフィルターの明確な区分定義は有りません

両者とも濾過器・濾過装置に含まれます。

ストレーナーは語源から、流体の中でも紛体と液体に使われることが多く、気体に使われることは少ないようです。
フィルターは意味が拡大して、「光学フィルター」「ノイズフィルター」のように、与えられた物の特定成分を取り除く(あるいは弱める)作用・作用するもの・機能として使用されています。

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