温度測定は、工業、医療、研究、食品加工など幅広い分野で重要な役割を果たします。しかし、測定された温度が「真の温度」を完全に反映しているとは限らない という点に注意が必要です。
温度測定には、測定機器の誤差、環境要因、測定方法の影響 など、多くの要素が関与し、それらを適切に考慮しなければ誤った温度管理につながる可能性があります。そのため、実際の運用においては「管理温度」という概念を導入し、誤差を許容した適切な温度管理を行うことが重要 です。
本章では、温度測定の限界と誤差の要因を詳しく解説し、真の温度に近づけるための方法、および実用的な温度管理としての管理温度の役割について説明します。
5.1 真の温度と測定誤差
5.1.1 真の温度の定義
「真の温度」とは、測定対象が本来持つ理想的な温度 を指し、測定方法や環境の影響を排除した状態での温度値です。しかし、実際には完全に測定することは困難であり、測定機器や環境要因が影響を与えることで誤差が生じます。
5.1.2 真の温度を測ることが難しい理由
例えば、以下の要因が「真の温度」と測定値の間に差を生じさせます。
1.温度計の許容差
測定機器には製造誤差や精度限界が存在し、特に熱電対や測温抵抗体などのセンサーには許容差が設定されています。
例えば、熱電対の許容差は温度範囲により±1〜2℃とされており、この誤差が測定値に影響を与える可能性があります。
2.温度計が測定対象に与える影響
接触型温度計(熱電対、測温抵抗体、サーミスタなど)は、測定対象に触れることで熱のやり取りが発生し、測定温度が変化することがあります。
例えば、測定対象が小さい場合、温度計が熱を奪うことで測定値が実際よりも低く表示されることがあります。
また、長期間使用した温度計は経年劣化により測定精度が低下する可能性があります。
3.赤外線放射の影響
赤外線加熱を用いた測定では、測定対象と温度計の両方が加熱される可能性があり、特に接触型温度計では、温度計自体が温まることで測定対象の正確な温度が測れなくなることがあります。
4.放射率の影響
放射温度計(赤外線温度計)は、対象物の放射率を基に温度を算出しますが、この設定がわずか1%異なるだけでも測定温度に変化が生じます。
例えば、放射率が0.95に設定されているべき対象を0.90に設定すると、測定温度が実際よりも数℃低くなることがあります。
5.測定環境の影響
風、湿度、近くの熱源は温度測定値を変動させる要因となります。
例えば、風の影響で測定対象の表面温度が変化したり、湿度の影響で温度センサーに結露が発生することがあります。
6.温度調節器の応答性
温度をリアルタイムで測定していたとしても、測定結果には一定の遅延(タイムラグ)が生じるため、実際の温度と測定温度がズレることがあります。
これは特に急激な温度変化が発生する環境で顕著に現れます。
5.2 管理温度の必要性
温度測定には誤差がつきものですが、実際の運用では完全な「真の温度」を求めるよりも、一貫性を持った温度管理が重要です。そのため、「管理温度」という概念を導入し、誤差を許容しながら適切な温度制御を行うことが求められます。
管理温度の具体例
加熱対象物の温度を500℃に設定し、ヒーターで加熱する場面を考えてみましょう。
1. 設定温度:500℃(温度調節器の設定値)
2. 測定温度:500℃(熱電対で測定された値)
3. 真の温度:測定方法や測定環境の影響により、実際の対象物の温度は±数℃の誤差がある可能性がある。
この場合、測定温度が500℃であったとしても、それが「真の温度」とは限らない ことに注意が必要です。しかし、設備の運用では、加熱対象物が適切な温度に達し、製造や加工の目的を満たしていることが最も重要 です。したがって、「管理温度」を設定し、実際の測定値と設備の性能を考慮した温度制御を行うことで、誤差を許容しつつ適切な温度管理を実現することができます。
5.2.1 管理温度を導入するメリット
1.誤差を考慮した実用的な温度管理が可能
真の温度を厳密に求めるのではなく、測定可能な範囲で一貫性のある温度管理を行うことができる。
設備ごとの特性を考慮し、センサーやヒーターの特性に応じた温度制御を行うことができる。
2.設備ごとの特性を考慮した温度管理
設備やセンサーの測定誤差を補正し、許容範囲内で安定した温度制御が可能になる。
3.製造プロセスの品質を維持
測定温度のわずかな誤差にとらわれず、製品や工程の要求を満たす適正な温度管理 を実施できる。
例えば、食品加工や金属加工では、一定範囲内の温度管理ができていれば品質に影響がない場合が多い。
5.3 まとめ
温度測定において、測定誤差を完全になくすことは困難ですが、目的に応じた温度管理を行うことが重要です。そのため、「管理温度」の概念を導入し、設備や製造プロセスごとに適切な温度制御を行うことで、測定誤差を許容しながら最適な温度管理を実現することができます。