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温度測定において、測定位置の選定は、測定精度の確保と管理温度(Controlled Temperature)の適用において極めて重要です。同じ対象物でも、測定位置が異なると得られる温度が変化するため、測定値のばらつきを抑え、一貫した温度管理を行う必要があります。
特に、**製造プロセスにおいて適切な温度管理を行うためには、加熱・冷却の影響を正確に把握し、測定対象の最適な位置を特定することが求められます。**不適切な測定位置を選択すると、設定温度と実際の温度にズレが生じ、品質低下や工程の不安定化を招く可能性があります。
本章では、温度測定位置の選定が温度管理に与える影響を解説し、管理温度を考慮した適切な測定位置の決定方法について詳しく説明します。また、第3章・第4章で取り上げた温度測定誤差の要因(熱伝導・熱対流・放射熱の影響)を考慮し、実際の測定位置の最適化に焦点を当てます。
6.1 管理温度の概念を活用した測定位置の決定
管理温度とは、測定誤差や環境変動を考慮し、安定した温度管理を行うための基準温度です。
温度測定の目的は、単に「温度を測ること」ではなく、最適なプロセス管理と製品品質を維持することにあります。そのため、測定位置の選定では、測定対象の製造プロセスや品質基準を考慮し、最も重要な部分の温度を測定することが不可欠です。
適切な測定位置を選ぶメリット
1.温度測定のばらつきを抑え、管理温度の安定性を確保
2.実際の製造条件に即した温度管理が可能
3.品質トラブルの発生を未然に防止し、歩留まりを向上
4.製造条件の最適化を支援し、エネルギーコストを削減
6.2 製造プロセスで最も重要な位置を測定する
製造現場で適切な温度管理を行うためには、加熱や冷却が製品にどのように影響を与えるかを考慮し、最も重要な温度を持つ部分を測定することが求められます。
**測定位置を誤ると、設定温度と実際の製品温度が異なり、製造プロセスの品質低下や不具合が発生するリスクが高まります。**以下に、各業界における重要な測定位置の具体例を示します。
6.2.1 加熱対象の温度測定の例
1.金属部品の焼き入れ
課題: 焼き入れプロセスでは、表面温度と内部温度が異なるため、適切な硬度を確保するには内部温度を測定することが重要。
測定位置: 部品の中央部または温度が安定する部分(熱電対を埋め込む)。
2.プラスチック成形
課題: 成形時に材料が均一に溶融・冷却しないと、成形不良や強度不足の原因となる。
測定位置: 溶融中の樹脂の内部温度、金型表面の温度。
3.食品加工(オーブン加熱)
課題: オーブン内の空気温度が適正でも、食品の内部が十分に加熱されていなければ安全性に問題が生じる。
測定位置: 食品の中心部(プローブを挿入)、庫内温度のばらつきを確認するために複数箇所を測定。
4.半導体製造
課題: ウエハーの加熱工程では、均一な温度制御が必要。設定温度と実際のウエハーの温度が一致しているかの確認が重要。
測定位置: ウエハーの中央と端部の温度を測定し、均一性を評価。
6.3 測定誤差を最小限にするための補足
適切な測定位置を選ぶ際には、外部環境の影響を受けにくく、一貫性のある位置を選定することが重要です。
特に、材質や形状、周囲環境の影響により、同じ対象物でも測定位置ごとに異なる温度が得られるため、測定位置の安定性を確保することが管理温度の信頼性向上につながります。
6.4 測定基準を統一し、一貫性を持たせる
測定精度を高めるには、測定位置を統一し、管理温度の基準として一貫したデータを取得することが不可欠です。
測定位置が毎回異なると、データのばらつきが生じ、管理温度の信頼性が低下します。
6.4.1 測定基準の統一例
1.金属部品の焼き入れ
統一基準:毎回、部品の中央部に熱電対を配置し、一貫したデータを取得
目的:温度ムラを防ぎ、測定位置を標準化
2.プラスチック成形
統一基準:ノズル温度だけでなく、溶融樹脂の内部温度や冷却工程の温度を統一した測定位置で記録
目的:成形品の品質を安定化
3.食品加工(オーブン加熱)
統一基準:毎回同じ食品の中心部に温度プローブを挿入し、内部温度のデータを取得
目的:加熱ムラを評価し、食品の安全性を確保
4.半導体製造
統一基準:毎回同じ測定ポイント(ウエハーの中央と端部)でデータを取得
目的:加熱の均一性を確認し、製造プロセスの精度を向上
6.5 まとめ
測定基準の統一と適切な測定位置の選定により、温度測定の精度を向上させ、温度管理の信頼性を高めることができます。
管理温度の概念を適用し、測定環境の影響を最小限に抑えることで、一貫性のある温度管理を実現し、製造プロセスの最適化と品質向上に貢献します。