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湿り材料内部では、含水率の高い点から低い点に勾配に沿って、主に内部から表面に水(液体)の移動が起こります。
毛細管現象による吸引(=毛細吸引力)や、オスモティック吸引力が作用します。
このような移動のことを「拡散」といいます。
拡散とは、粒子、熱、運動量などが自発的に散らばり広がる物理現象です。
拡散は輸送現象の一種で、拡散方程式で定義できます。
例えば、巨視的な分子の拡散はフィックの法則に、また巨視的な熱エネルギーの拡散はフーリエの熱伝導の法則に従います。
いずれの場合にも、物理量の場に勾配があるときにのみ明らかな拡散が見られます。
たとえば熱拡散では、温度が一定のときには熱は一方向とその逆方向に同じ速度で移動するから、全体としては変化はありません。
これらの流束密度(それぞれ分子、エネルギー、電子の流れ)は、勾配(濃度勾配、温度勾配、電位勾配(電場))に、物理的性質を示す係数(拡散係数、熱伝導率、導電率)をかけた値に等しくなります。
<<アドルフ・オイゲン・フィック(Adolf Eugen Fick, 1829年9月3日 – 1901年8月21日)ドイツ人>>
フィックの第1法則
J は拡散束または流束 といい、単位時間当たりに単位面積を通過する、ある性質の量と定義されます。質量が通過する場合には次元は[ML-2T-1]で与えられます。
D は拡散係数といい、次元は[L2T-1]
c は濃度で、次元は[ML-3]
x は位置で、次元は[L]
第1法則は、定常状態拡散、すなわち、拡散による濃度が時間に関して変わらない時に使われる、「拡散流束は濃度勾配に比例する」という法則です。
工業的に定常状態拡散は水素ガスの純化に見られます。数式で表すと、
あるいは1次元なら、
フィックの第2法則
第2法則は、非定常状態拡散、すなわち、拡散における濃度が時間に関して変わる時に使われます。
実際の拡散の状態は、非定常状態がほとんどです。拡散係数D が定数のとき、濃度c の時間変化は次の拡散方程式で表されます。
これは広義の連続の式と等価です。あるいは1次元なら、
<<ジャン・バティスト・ジョゼフ・フーリエ男爵(Jean Baptiste Joseph Fourier, Baron de、1768年3月21日 – 1830年5月16日)フランス人>>
フーリエの法則と熱伝導方程式
ある固体内の温度分布は、どのような方程式で表されるか?その答えがフーリエが導いた熱伝導方程式(別称、熱方程式・フーリエの方程式)です。
フーリエは、「各点での熱の移動する速さは、その点における温度勾配に比例する」(フーリエの法則)ことを示しました。
これにより、ある時刻のある領域における熱量は流入した熱と流出した熱の差で表すことができます。
また、熱量と比熱・温度の関係式からも熱量を表すことができます。
フーリエはこれらの関係式を用いて熱伝導方程式を導き、さらにいくつもの境界条件のもとでこれを解きました。
ρE :エネルギー密度 [J/m]
J :熱流束密度 [W]
λ :熱伝導率 [W m/K]
CV :熱容量 [J/m K]
単位時間に単位面積を流れる熱流(熱流束密度)を J [W/m2] とし、温度をT とすると、分子論的熱緩和時間より十分長い時間(定常状態と見なせる時間)領域での現象に対して、熱流束密度J は温度勾配 grad T に比例します。すなわち単位時間に単位面積を流れる熱流(熱流束密度)を J [W/m2] とし、温度をT とすると、分子論的熱緩和時間より十分長い時間(定常状態と見なせる時間)領域での現象に対して、熱流束密度J は温度勾配 grad T に比例する。すなわち
で表されます。これはフーリエの法則と言われます。この時の比例係数λを熱伝導率(thermal conductivity)といいます。
物質が等方的であればλはスカラーであすが、一般に非等方的3次元系ではJ と grad T の向きは一致せず、熱伝導率はテンソルで表現されます。
単位体積当たりのエネルギー(エネルギー密度)をρE [J/m3]とすると、エネルギー保存則と連続の方程式より
の関係が成り立ちます(t は時間)。 エネルギー密度の増加率は単位体積あたりの熱容量[2]CV [J/m3K]を使って、の関係が成り立つ(t は時間)。エネルギー密度の増加率は単位体積あたりの熱容量[2]CV [J/m3K]を使って、
で表現されます。以上から、λを一定かつ等方的とすれば、温度場T が従う式として
を得られます。 これは熱伝導方程式と言われ、拡散方程式の形をしている。λ/CV を熱拡散率(温度伝導率)といいます。
1次元の場合
以上の式を1次元に簡略化すると以下のようになります。
フーリエの法則
エネルギー保存則
エネルギー密度の変化と温度変化の関係
熱伝導方程式
★ ケーススタディー:初期含水率が高い湿り材料を熱風ヒーターで乾燥するときのプロセス。
- 熱風によって表面付近の水(液体)が蒸発します。
- 内部から表面に水(液体)が拡散し、表面付近は常に湿った状態を保ちます。
- 熱風の熱エネルギーの一部を表面で蒸発潜熱として消費します。
- 水の蒸発量は材料温度が高くなるほど増加します。
- 従って、材料温度が高くなるほど、熱エネルギーの消費も増加します。
- 熱風ヒーターから材料に供給する熱エネルギーと、蒸発潜熱として消費する熱エネルギーが釣り合えば、温度は一定に保たれます。
- 材料温度が一定に保たれると、蒸発量が一定となり、乾燥速度も一定となります。
- この状態を、定率乾燥速度といいます。
- この定率乾燥速度が継続している期間を、定率乾燥期間といいます。
- 従って供給熱エネルギーと消費熱エネルギーが釣り合うことが無ければ、定率乾燥速度と定率乾燥期間は出現しません。
※ 潜熱とは
潜熱とは、物質の相が変化するときに必要とされる熱エネルギーの総量です。
乾燥とは、液体を気体に変えて放出する相移転の作業ですから、潜熱の供給が必要になります。
水を沸かしお湯にして蒸気を作るときに使う熱エネルギーと同じものです。
蒸発に伴う蒸発潜熱は、気化熱ともいわれます。
潜熱の概念は1750年にジョゼフ・ブラックが提唱しました。
<<ジョゼフ・ブラック(Joseph Black, 1728年4月16日 – 1799年11月10日) スコットランド人>>